観光依存度の高い自治体と地価の変動状況

観光需要の増加は、地域の宿泊施設の拡充や関連産業の集積を通じて、土地利用に対する需要を押し上げる。とりわけインバウンド需要の急回復が進む近年、一部の自治体では地価の顕著な上昇が確認されている。一方で、観光地として知られながらも地価が下落し続ける自治体も少なくない。

本稿では、全国の基礎自治体を対象に「観光依存度」の指標を定義し、観光依存度の高い上位100自治体について、地価の変動状況をマップ上で可視化した。マーカーの色は地価変動率(赤=上昇、青=下落)、大きさは観光依存度を表す。各マーカーをクリックすると詳細が表示される。

絞り込み:

1. 観光依存度の定義

本マップでは、各基礎自治体における全産業従業者数に対する宿泊業従業者数の比率を「観光依存度」として用いている。具体的には、以下の算式で算出した。

観光依存度 = 宿泊業従業者数 ÷ 全産業従業者数

この指標が高い自治体は、地域の産業構造において宿泊業が大きな比重を占めており、地域経済が観光に依存していることを意味する。

なぜ人口比率ではなく全産業従業者比を用いるのか

人口(住民基本台帳)を分母とする方法もあるが、都心の業務集積地区(例:千代田区、港区)では住民人口が極端に少ないために比率が過大に算出され、観光依存度の指標として適切に機能しない。全産業従業者数を分母とすることで、その地域の経済活動全体に占める宿泊業の比重を正確に把握できる。

データの出典

宿泊業従業者数および全産業従業者数は、総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」の産業中分類別集計(全産業=大分類AR、宿泊業=中分類コード75)を使用している。なお、政令指定都市については、市全体ではなく行政区単位で集計している。

なぜ宿泊客数を直接使わないのか

観光庁の「宿泊旅行統計調査」は、宿泊者数に関する最も包括的な統計であるが、公表されている最小地域単位は「広域市町村(130区分)」であり、個別の基礎自治体(市区町村)単位のデータは提供されていない。このため、経済センサスの宿泊業従業者数を代理変数として採用した。

2. 地価変動率のデータ

地価の変動率については、国土交通省が公表する以下の2つの地価調査データを統合して使用している。

調査名実施主体基準日使用年次
地価公示国土交通省毎年1月1日令和8年(2026年)
都道府県地価調査(基準地価)各都道府県毎年7月1日令和7年(2025年)

地価公示のみでは調査地点が設定されていない小規模町村が多いため、都道府県地価調査を補完的に用いることで、対象100自治体のうち97自治体のカバーを実現した。残る3自治体(双葉町、青ヶ島村、御蔵島村)は、いずれの調査にも地点が存在しないか、調査地点が極めて限定的な自治体である。

各自治体の地価変動率は、当該自治体内に所在する全調査地点の対前年変動率を単純平均して算出した。マップ上の代表地点(マーカーの位置)は、変動率が最も高い調査地点の座標を採用している。

3. マップの見方

マーカーの色:地価変動率

マーカーの色は、当該自治体における地価の平均変動率を表す。赤系の暖色は地価上昇、青系の寒色は地価下落を示す。

変動率の範囲
● 濃い赤+15%以上
● 赤+10〜15%
● オレンジ赤+5〜10%
● オレンジ+2〜5%
● 黄0〜+2%
● 薄い青-2〜0%
● 青-5〜-2%
● 濃い青-5%未満

マーカーの大きさ:観光依存度

マーカーの円が大きいほど、観光依存度(宿泊業従業者数/全産業従業者数)が高い自治体であることを示す。最も大きな円は占冠村(依存度55.0%)であり、地域の全従業者の過半数が宿泊業に従事している。

フィルター機能

マップ上部のボタンで、以下の絞り込みが可能である。

  • 「全て」:97自治体すべてを表示
  • 「地価上昇」:平均変動率が0%超の自治体のみを表示
  • 「横ばい」:平均変動率が0%の自治体のみを表示
  • 「地価下落」:平均変動率が0%未満の自治体のみを表示

各マーカーをクリックすると、人口、全産業従業者数、観光依存度、地価変動率(平均・最大)、平均地価、データの出典地点数がポップアップで表示される。

4. データ出典

データ項目出典時点
宿泊業の事業所数・従業者数、全産業従業者数(市区町村別、産業中分類別) 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」事業所に関する集計 産業横断的集計 第6-1表(e-Stat 2021年6月1日
市区町村別人口 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」第25-03表(e-Stat 2025年1月1日
地価公示(標準地の価格・対前年変動率・座標) 国土交通省「令和8年地価公示」(国土数値情報ダウンロードサイト 2026年1月1日
都道府県地価調査(基準地の価格・対前年変動率・座標) 国土交通省「令和7年都道府県地価調査」(国土数値情報ダウンロードサイト 2025年7月1日

5. 留意事項

  • 経済センサスの従業者数は2021年6月時点のデータであり、地価公示(2026年)・住民基本台帳人口(2025年)とは時点が異なる。コロナ禍からの回復過程で宿泊業の構造が変化している可能性がある。
  • 地価公示(2026年1月1日時点)と都道府県地価調査(2025年7月1日時点)は基準日が異なるが、両データを統合して平均変動率を算出している。
  • 観光依存度は「宿泊業」の従業者数のみを対象としており、日帰り観光が主体の自治体(例:テーマパーク所在地等)の観光依存は過小評価される可能性がある。
  • 地価公示・都道府県地価調査の調査地点が設定されていない3自治体(双葉町、青ヶ島村、御蔵島村)はマップに含まれていない。

本コラム投稿者

池知貴大
IKEJI Takahiro

豪州の大学院でデスティネーション・マネジメントを学んだ後、都内のシンクタンクで観光地のまちづくりに携わる。現在は弁護士とシンクタンクにおける研究員として、文化・観光・まちづくりが交差する領域をサポート。